SSブログ

【本】『七人の侍』と現代-黒澤明 再考 [書評]

 この本も黒澤明生誕100年にちなんで出版されたかどうかは定かでないが、黒澤明の代表作と目される『七人の侍』に関する評論というより、何度もこの映画を観た読者には、どこかで読んだことのある内容と全く知らなかった内容で、少し長めの解説本という感じの本であった。

 この映画は56年前、1954年に公開され、大きく時代劇に分類される。これほど古い映画であれば、現代とは関係ない古典の名作のひとつと考えられがちであるが、この筆者は広く世界のなかでの『七人の侍』の現在の意味をも解説している点が新しい論点であった。この映画のストーリーは、雇われ侍が、雇い主の百姓の村を、正体不明の野武士から守るために戦い勝利する、というものである。これを言葉を変えて表現すると、雇い兵をもって、テロリスト、野盗から自国、自営地、町、村を守る、ということになる。今現在でも、これに当てはまる現実の地では数多くあり、これらの地ではバイブル的映画としてこの『七人の侍』が見られているという。この視点は平和ボケにある日本では意識されない論点である。

 もうひとつ、少し批判的に書かれているが、映画の時代設定は、戦国時代末期、織田信長から豊臣秀吉の時代に移ろうとする時代のようである。この時代の「百姓」と「野武士」の階級が明確に表現されていることがおかしいという論評もあったが、映画の世界であれば、これは明確に分けて表現いないと全体のストーリーをささえる細部の挿話への入れ込み具合がおかしくなる。あのままの設定でいいのである。あくまでフィクション性を楽しむのも映画のたのしみであるかである。別に時代劇に、ドキュメンタリー性は求めていない。56年前の時代考証と現在の時代考証における比較をしてみても意味がないと言いたい。ちまたによくある、時代劇への批評で、時代考証的に云々という意見は、映画の本質を理解していない但のイチャモンと同じであると思う。時代が下れば、時が流れれば新たな発見がでてくることは当たり前であるし、この当たり前のことを偉そうに論評に加えるのは、学者先生の弊害である。学術論文ではないのだ。重要なことは、この時点で何故このような解釈、時代考証をしたかという論点である。

 この本の中で、1954年という年の背景を丹念に『七人の侍』の内容と絡めて解説しているところは、現在の時間軸からみると、なるほどという伏線が多々ある作品であることを再認識させられた。

 最後にこの本の「あとがき」より
 『七人の侍』は今日、日本映画のみならず、世界の映画を代表する古典的名作として知られている。本書で私が試みたのは、この作品を古典という観念からも、名作という称号からも救い出すことであった。あえていうことにしよう。黒澤明が1954年に監督した『七人の侍』は、21世紀の現在においてすら、いや現在においてこそアクチュアルなフィルムである。都市に失業者が溢れ、農村が疲弊の極致に達している時代。国境を超えて難民が避難所を求め、それを追うように武装集団が掠奪をほしいままにする時代。勘兵衛や菊千代が理念のために戦い、虚無に突き当たって服喪を強いられたのは、実はそのような時代であった。黒澤明は2010年に生誕100年を迎えたが、このフィルムはどこまでも現役のフィルムであり、その意義は映画史の枠を超えて、ますます重要なものとなろうとしている。


『七人の侍』と現代――黒澤明 再考 (岩波新書)

『七人の侍』と現代――黒澤明 再考 (岩波新書)

  • 作者: 四方田 犬彦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/06/19
  • メディア: 新書



七人の侍 [DVD]

七人の侍 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • メディア: DVD



七人の侍(2枚組)<普及版> [DVD]

七人の侍(2枚組)<普及版> [DVD]

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • メディア: DVD



黒澤明 MEMORIAL10 4:七人の侍 (小学館DVD&BOOK)

黒澤明 MEMORIAL10 4:七人の侍 (小学館DVD&BOOK)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/07/22
  • メディア: 単行本


内容説明
映画芸術の最高到達点!映画の歴史を変えた超大作!

「農民に雇われた侍が野盗と戦う。侍は七人で幾人かが死ぬ」。
世界映画史上に残る傑作「七人の侍」とは、これ以上でもこれ以下でもない。今日のゴテゴテと飾り立てられた映画に比べて、なんとシンプルなストーリーだろうか。しかしこの骨太さが映画というものだ。まずはただ息もつかせぬ207分を楽しめばよい。そしてこの創造の奇跡の秘密が知りたいのなら、同梱の書籍をひもといてほしい。
「七人の侍」が出来上がるまでには計り知れないほどの創造と破壊があった。シナリオ段階で、2本の映画の企画が生まれては消え、その苦闘の果てに「七人の侍」が出来上がるまでの経緯を、「七人」の脚本の共同執筆者で今日も健在の橋本忍がインタビューで克明に語る。また撮影に入っても、この映画を決して妥協しては造らないという黒澤監督はじめスタッフのこだわりにより、製作費も撮影期間も巨大化していく。絶体絶命の製作中止の危機も乗り越え、ついにクライマックスの村での死闘を迎えるその製作過程の緊迫のドキュメントを、記録係野上照代氏がエッセイで書き下ろす。
世界の映画界の風景を以前と以後で一変させた傑作「七人の侍」。日本には「七人の侍」があるのだ!

編集担当者からのおすすめ情報
もしまだ「七人の侍」を観ていない人がいたら、その人は幸せです。なぜなら世界一の映画をこれから観ることができるから。とにかくまずはこの映画を観てください。傑作、名作、芸術・・・どんな先入観も必要ありません。ただDVDの再生ボタンを押してください。そしてもしこの映画に恋に落ちたなら、本も読み進めてほしい。この本は、あなたと同じようにこの映画と恋の落ちた人々のラブレターです。



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。