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【本】リクルート事件・江副浩正の真実 14年以上に渡る検察との闘争 [書評]

 戦後最大の贈収賄事件として、ロッキード事件とならんで検察が最も輝いた事件として評価されている。この頃は、検察は絶対的な正義で、検察に睨まれればその人はもう悪人という構図が常識的に想起される時代であったのである。
 もういちどリクルート事件の概要を押さえておく。リクルート事件(リクルートじけん)とは、1988年(昭和63年)に発覚した、日本の贈収賄事件である。
 贈賄側の会社経営者や、収賄側の政治家や官僚らが次々に逮捕され、当時の政界・官界を揺るがす、一大スキャンダルとなった。この事件では、出版社・リクルートの関連会社であり、未上場の不動産会社、リクルートコスモス社の未公開株が賄賂として使われていた。

事件概要(Wikipediaより転載)
・1988年6月18日、朝日新聞が『川崎市助役へ一億円利益供与疑惑』をスクープ報道し、その後、リクルートにより関連会社リクルート・コスモス(現 コスモスイニシア)社未公開株が、中曽根康弘、竹下登、宮澤喜一、安倍晋太郎、渡辺美智雄など大物政治家に、店頭公開前に譲渡していたことが相次いで発覚する。90人を超える政治家がこの株の譲渡を受け、森喜朗は約1億円の売却益を得ていた。時の大蔵大臣である宮澤は税制特別委員会で「秘書が自分の名前を利用した」と釈明した。さらに学界関係者では、政府税制調査会特別委員を務めていた公文俊平にも1万株が譲渡されていたことも判明した。
・東京地検特捜部は、1989年、政界・文部省・労働省・NTTの4ルートで江副浩正リクルート社元会長(リクルート社創業者)ら贈賄側と藤波孝生元官房長官ら収賄側計12人を起訴、全員の有罪が確定した。だが、政治家は自民党では藤波議員ただ一人、そして公明党の池田克也議員が在宅起訴されただけで、中曽根や竹下をはじめ大物政治家は誰1人立件されなかった。 【以上転載終了】

 さて本書は、事件の当事者で、贈賄側の首謀者とされた江副浩正である。当事者でしか知りえない、それぞれの収賄者との関係、未公開株を持ってもらった理由、請託の有無などを、江副氏側の論理で書いているとともに、現在問題となりつつある検察の取り調べ内容を具体的に記述しているのである。拘置所での取調べは、現代の拷問で人権上の問題提起をしている。
 取調べのために拘留された日数は、113日、保釈金2億円であった。(平成元年6月6日)
そして裁判は平成元年12月に始まって公判回数は、332回を数え、平成15年3月に判決の日を迎え、判決は、懲役3年、執行猶予5年であった。

 江副氏はリクルートの創業者で逮捕当事は、会長職にあり政界とのロビー活動にいそしんでいたと云う。政府の委員なども兼務して、マスコミを賑わすベンチャー企業の成功者として、時代の寵児であったのである。しかし好事魔多しの例え通り、何故このように活躍できるのかの疑問を呈した人がいて、この人が朝日の記者であったのである。そして未公開株を本人の弁明からすると、請託の意思はなく、唯単に軽い手土産代わりに政界・財界・官界へ未公開株をばらまいたのである。江副氏の知らない関係者まで渡されていた事実からすると、江副氏の意図とは別に、経済人が何の意図もなく未公開株を渡すはずがない、という見解が検察が起訴に踏み切った理由とされる。そして、検察の捜査意図は、政界・官界の大物を逮捕・有罪にして、世間に向けていい顔がしたいという理由のようであった、とある。この辺りの事情が、江副氏への供述調書の署名をめぐって検察官との駆け引きが、生々しく記述されている。

 例の検察の描いたストーリー通りに供述調書が検察側で作成され、その内容を無理やり認めさせるのである。その認めさせ方が、言葉の暴力、壁に向かって目を開けたまま長時間立たせ、目をつぶると、耳元で鼓膜が破れるぐらいの大声を発するという。立派な暴力であり、これを裁判の公判で指摘すると、当の検察官はとぼけて認めようとしないで、平気の平で虚言を並べる。また、釈放や情状酌量を目の前にぶらさげて、本人の否認を無視して署名させるのである。具体的な描写は本書に何カ所も書かれている。

 さて本書の評価であるが、リクルート事件の真実に迫る当事者の記録としては貴重であるし、特に検察捜査場面の記述は秀逸である。しかし、どこまで真実かはこの1冊ではわからない。人間の習いで、過去の出来事について、都合の悪いことは脚色し、都合の良い所を膨らませる傾向にあるからである。できれば、当事者である検察官側の記述が公に刊行されれば、事件の真実性が高まると思うが、嘘がばれるので難しいだろう。

リクルート事件・江副浩正の真実 (中公新書ラクレ)

リクルート事件・江副浩正の真実 (中公新書ラクレ)

  • 作者: 江副 浩正
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2010/08
  • メディア: 単行本



リクルート事件・江副浩正の真実

リクルート事件・江副浩正の真実

  • 作者: 江副浩正
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2009/10/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



(英文版) リクルート事件・江副浩正の真実 - Where is the Justice?: Media Attacks, Prosecutorial Abuse, and My 13 Years in Japanese Court

(英文版) リクルート事件・江副浩正の真実 - Where is the Justice?: Media Attacks, Prosecutorial Abuse, and My 13 Years in Japanese Court

  • 作者: Hiromasa Ezoe
  • 出版社/メーカー: 講談社インターナショナル
  • 発売日: 2010/08/05
  • メディア: ハードカバー



正義の罠 リクルート事件と自民党 二十年目の真実

正義の罠 リクルート事件と自民党 二十年目の真実

  • 作者: 田原 総一朗
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2007/05/31
  • メディア: 単行本



かもめが翔んだ日

かもめが翔んだ日

  • 作者: 江副 浩正
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2003/10/30
  • メディア: 単行本



取調べの「全面可視化」をめざして - リクルート事件元被告・弁護団の提言

取調べの「全面可視化」をめざして - リクルート事件元被告・弁護団の提言

  • 作者: 石田省三郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2009/12/16
  • メディア: 単行本



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