SSブログ

『坂の上の雲』秘話より [坂の上の雲]

 小説、テレビドラマと話のあらすじはすでの広く知れわっており、ここであえて説明するつもりはない。興味があるのは、何故、あのような小説を司馬遼太郎が書き、世の中に問いただしたことである。

 彼の数多い講演会の中の「坂の上の雲」秘話をテーマにしたものがあり、そこから引用する。

何を聞いていいただこうかと考えていたのですが、やはり私が四十代に十年を費やして調べたり、書きました『坂の上の雲』という作品のこぼれ話を申し上げることにします。四十代というのはだいたい物がわかってきて、なお体力が残っている。おもしろい世代なんですけど、私の場合は『坂の上の雲』を調べるだけで終わりました。

・・・それにしても『坂の上の雲』は長大な作品で、しかもほんの最近の事件です。いい加減なことを書くわけにもいかないものですから、非常に神経を使って、ヘトヘトになりました。
 小説というのは本来フィクションなのですが、フィクションをいっさい禁じて書くことにしたのです。特に海軍や陸軍の配置はですね、何月何日何時にこの軍艦、あるいは部隊はここにいたということを間違って書いたら、なんにもなりません。
 もうひとつ困ったことがあります。
 私は速成教育でありますが、士官の教育を受けましたから、陸軍の戦術は少しわかりました。なんとか自分自身でやりました。たとえば旅順の攻撃のときだと、理想的な攻撃はこれで、実際の乃木さんの攻撃はこれだと、何枚も地図を書きつぶしました。
 しかし、海軍をよく知らない。あの軍艦の硬いタラップを踏んだときの感触を知っているかどうかで、ずいぶん違うものですね。
 そこで家庭教師を頼みました。
 正木生虎(いくとら)さんという、元海軍大佐です。もうお亡くなりになりましたが、大変な紳士でした。お父さんは日本海海戦に参加され、のちに中将になった方です。お父さんから息子へ、玄人が玄人に話を伝えてきたわけで、さぞかし話が正確に伝わっているだろうと考えたのです。正木さんは家庭教師になりましょう、海軍のことを教えましょうと言ってくれました。・・・

 ・・・しかし、それにしても軍人というのは難しい職業ですね。私は日本海海戦でスワロフが沈むまでがよき明治であって、それ以降の日本人は大きく変わったと思うのです。
 ロシアという大きな国に勝ったということで、国民がおかしくなってしまいました。世界の戦史で日露戦争ほど、いろいろな角度から見てうまくいった戦争はないかもしれません。うまくいった戦争という表現は変な表現ですが、要はそんなに戦争を上手に遂行した国でもおかしくなった。
 軍事というももは容易ならざるものです。孫子がいうように、やむを得ざるときには発動しなければなりませんが、同時に身を切るもとである。
 国家とは何か。そして軍事とは国家にとって何なのか。国家の中で鋭角的に、刃物のようになっているのが軍隊というものです。皆さんの職業は、世界史的にも、アジアの歴史からも、自分の歴史からもいろいろ考えられる職業です。これほど国家の運命を考えなくてはならない職業は、ほかに多くはありません。


※この講演は海上自衛隊幹部学校で行われたもの。

 また、別の講演会より、

・・戦争はときどき負けなければいけませんね。ヨーロッパの国々は、お互いに勝った負けたがあって成立している社会であり、文化なのです。
 常勝の国はありません。
 負けるたびに、民族としての思想が深くなったり、政治的に対する物の考え方が深くなったりする。
 勝ちっぱなしの国は、やはりおかしくなる。もし日露戦争に勝たなければ、その後の日本は困った事態になったでしょう。ところが、勝ったがために出てきた弊害も、非常に深刻なものがありました。
 例を挙げますと、日露戦争については陸軍に公式の戦史があります。参謀本部が編纂した戦史でして、『明治卅七八年日露戦史』という浩瀚(こうかん)なる、実に厚い本が何冊も続いているものですが、この戦史には一文の値打ちもありません。
 もともと勝った側の歴史は読んでもつまらないですね。自慢話ばかりですから、それに比べると、負けた側の歴史は参考になる。
 日露戦争の場合も、ロシア側の資料は非常に参考になりました。軍法会議も開かれました。いろいろな形で、なぜ負けたんだという無数の質問が、戦場の担当者を追求することになる。担当者は事情を説明したり、弁解したりする。こうして負けた側の歴史の実態がつかめます。
 しかし、勝った側の日本の参謀本部がつくった歴史はひどいものでした。
 昭和二十九年(1954)ぐらいに古本屋で買いましたが、たばこ1ダースぐらいの値段でした。
 古本屋は本の中身をよく知っています。中身の空疎な本は安い。『日露戦史』は、まことに空疎な本だったようです。
 ただ、私にとっては役立ちました。
 付図が非常にたくさんありまして、何月何日のある師団の状態、その翌日の状態といったふうに、ずっと地図がついていて、これは非常に値打ちがあるものだった。しかし、中身はほとんど価値がない。・・・・


※上記の講演は防衛大学校で行われたもの。

フィクションでない小説のため「『坂の上の雲』に隠された真実」なる本も出現している。「坂の上の雲」の誤りを正した本とあるが、まだ読んでいない。著者がどのような背景、スタンスの人物かが問題でまだ調べきっていない。教科書問題もそうであるが、ある勢力に都合の悪い事実は真実でないという曲解をねじ込む輩が必ずいる。残念ながら真実に対して謙虚な見方がどうしてもできない人たちである。太平洋戦争中にも海軍はミッドウェイ海戦の敗北を首相にも知らせなかった、という。何という戦争犯罪人たちか。

 同じようなことは、最近のアメリカとの核持ち込みの秘密協定の存在でも言える。事実をまげて国民にウソを言いつづけていた、政治家、官僚の責任追及をすべきである。1人の新聞記者はこの件のスクープを「情報漏洩」事件として、被告人とされ、人生を棒にふった人がいるのである。
 あふれかえる報道内容を鵜のみにせず、記事内容とタイミングを良く考えて、裏の背景をよく考えなければならない。
 最近の気になる記事、宮内庁長官の発言、米国大使の自作自演の基地移転問題に関する動き、そして鳩山首相のインドでの基地移転発言、なにか裏で糸を引いている勢力の動きを感じるのだが。それは、太平洋戦争でも国民をだまし、戦争に巻き込みながら、責任追及をのがれ、組織的に温存され生き延びた組織である。
 表だけの情報では、真実はわからない。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。